今日はハナビの誕生日だった。
先日ハナビに大きな借りを作ってしまった木ノ葉丸はこれを今日思い出して大いに慌てた。
大いに慌ててハナビまで突っ走る勢いの木ノ葉丸の背中に(思い出すきっかけ→)モエギが
「ちゃんとプレゼント用意していくのようー」
と声を掛けてくれたので昼飯にライバルと張り合った(超大盛スペシャルラーメンの)せいですっからかんだった彼は
一度自宅に戻り、手ぶらで恩人の誕生日に押し掛けるという体たらくを回避したのだった。
___ 猿飛家の猿 ___
日向宗家に着いたら折りしも晩御飯時で、
卓上にはその辺の母ちゃんよりずっと母ちゃんくさいハナビの姉ちゃんが腕によりをかけたご馳走が並んでいた。
面子は三人。
家族水入らずの食卓に場違いさを感じて何だか恥ずかしくなる木ノ葉丸。
睨むハナビ。
睨む宗主(←ただの一瞥)。
(座布団とお茶碗をにこやかに用意する)空気の読めないハナビの姉ちゃん。
勧められるままに用意された席に座ってぎこちなく(普段の夜にするような)挨拶をしたら
上座の宗主は木ノ葉丸が食卓につくことを認めたように小さく頷いた。
ハナビはまだ睨んでいる。
木ノ葉丸と、木ノ葉丸の肩にちょこなんと座る一匹の猿を。
日向家の人々にとってははじめて見る猿である。
まだ子供のようでちょっと小柄。
毛並みもふわふわ。
そして片腕がない。
食事や居間の置物などにも興味を示さず非常におとなしかったことから、
宗主とヒナタは「忍猿か何か」と決めてかかったようが実は違う。
ハナビへの誕生日プレゼントでもない。
猿飛家に代々伝わる家宝の猿である。
祖父が死に叔父が死んで現在は木ノ葉丸の所有物で、
なんと持ち主の願いをかなえるという霊験あらたかな猿(推定120歳)。
小遣いパアな木ノ葉丸は、ハナビに贈るプレゼントをこの猿に頼るつもりで持ってきたのだ。
だから自信満々ハナビに聞いた。
「ハナビ!ハナビの欲しいものって何だ?コレ?何だっていいんだぞコレ?言ってみろコレ!」
ハナビは嫌な予感にゾクゾクしながら木ノ葉丸を睨んだ。知らず冷や汗が出る。
何しろ今まで、この男が誰かの為に好意で動こうとしてろくな事になったためしがなかったので。
しかし結果はどうあれ、いつだって木ノ葉丸の正義の心は誰の胸にもまっすぐに響いていた。
だからどれだけ失敗しても彼は憎まれたりはしないし、その素直さと優しさに触れるうちにいつしか
彼の為に尽力を惜しまない性質にされてしまうのだ。
自分もその一人であることを自覚してるハナビは、だから少しだけ柔らかい笑みを浮かべて
「いや、欲しいものはありませんから…」
あえて言えばあなたにはもうすこし考えてから行動できる力を身につけてもらいたいです。と、
彼が通知表に何べんも書かれてきたことを言って丁重にお断りした。
丁重すぎたのか木ノ葉丸はお断りされたと気付かず
「おいらのことじゃなくてー!!ハナビが誕生日に欲しいものだコレーー!!」
と真っ赤になって叫ぶところだったが、ちょうどケーキを切っていたヒナタが
「こ、木ノ葉丸くん…お猿さんにケーキ、あげてもいいのかな…」
と聞いてきて完全に話の腰を折られた。
肩の猿を見ると、これまで何につけても無反応だったそいつの目は
焼いたフルーツ(主にバナナ)の匂いがするケーキに釘付け。
ケーキを小皿に取り分ける手の動きに視線はロックオンされている。
家ではそれほど食べる猿ではないので、自分のを分けるからと言って断れば
ヒナタはわざわざ猿用にケーキと皿と箸まで用意してくれた(ケーキもパスタも箸で食べるのが日向家)。
猿が一つしかない手でお行儀良く、それはそれは旨そうにケーキを食べるので自分も腹ペコだったことを思い出し、
ケーキと一緒に勧められた肉や魚や野菜の料理がこれまた美味で、
帰宅途中にちょっと立ち寄った風のハナビの兄ちゃんとハナビたちが誕生日のことを話題にするまで
何を贈ったらいいのか相談したくてここに来たことなどすっかり忘れてしまっていた。