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その言葉で、ネジは目覚めた。



「あああああぁぁぁぁぁああああぁぁあああ!!!!!!!」
朝焼けの空にネジの悲鳴が響き渡る。
中庭で早朝鍛錬に励んでいたコウは、驚いてネジの部屋の前へと駆けつけた。
若い男が集まり住めば、日常的に騒ぎもすれば奇声も上がる。
ただそれが普段から気取りすましたネジの部屋、しかも早朝という事態が大いに珍事だった。
隣部屋からつい三時間前に帰寮したトクマが「うっるさいなー」と目を擦り擦り縁側に出る。
異変は察したものの、今も昔も分家で最もやんごとなき生まれの男の寝覚めに
どう声をかけたものか考えあぐねていたコウを尻目にトクマは障子に手をかけ、
「若?入るぞ?入りますよ?見られて困るものは隠したか??」(←大声)
言い終わらぬうちに部屋から怒鳴り声。
「ふっっふっざっけるな!!元に戻せコノヤロー!!!」
トクマとコウは顔を見合わせる。ネジは誰かと話している。しかもただならぬ口調に二人同時に頷き、障子を開けた。
「だっ大丈夫ですかネジさん!」
「どうした!!」
「きゃあ!!!」
ネジは慌てて寝巻きの襟を両手できつく合わせた。その隙を突いて猿が窓から逃げ出す。
「あっ…ま、待てこの!!!!」
ネジは窓枠に手を付き、あっという間に見えなくなった猿に向かって叫ぶ。
「帰るところなんてわかってんだからな!!覚えてろチクショー!!!」
最後は金切り声である。コウとトクマはまた顔を見合わせた。
「・・・・・・・・。」
どっちが何にツッコむか牽制しあう二人。
念には念を入れて上から下までネジを観察するが、どこをどう見ても普段のネジだ。少なくとも外見は。
そのうちにネジが吼えた。
「あなたたち!無礼でしょう出て行ってください!!」
「はっ!!??」
「は、ハイ!」
二人が何故か赤面して退室した後、ネジは引き出しという引き出しを片っ端から開けて、
やっと衣類を発見すると慌てて着替えながら猿を追うかこの嫌な予感に従うか考えた。




約300メートル離れたヒナタの部屋で、ハナビは目を覚ますと同時に跳ね起きた。
悪夢でも見たように息苦しい。いや悪夢を見たのかもしれない。そしてまだ覚めてないのかもしれない。
ハナビが眠っていた布団にはヒナタが、ハナビの気配に目を覚ましてむにゃむにゃとこっちを見ている。
そして信じがたい一言
「おはよう、ハナビちゃん」

ハナビは自分の頬を打つ。痛い。
「どっどうしたのハナビちゃん?!」
ヒナタがかけよってハナビの頬に触れ、心配そうに覗き込む。
「ハナビ…大丈夫?ねえ…何か言って」
何か言わなきゃ…何か…言葉が出てこない。
しかし夢の中でもオレは上忍、意味なくパクパクするのだけは避けたいとでも思ったのか、
「は…なびだ…いじょうぶ…」
と頭に渦巻く音を口から出した。
「そう?…本当に?なんだか様子が変だよ…ほら、赤くなっちゃったじゃない。」
ヒナタは机の中から手鏡を取り出してハナビに見せた。
ほっぺが赤くなろうが青くなろうが知ったことじゃない。
(実際挫傷のざの字も厚かましい、痕とも呼べない痕でしかないのに酷い甘やかし様だ。)
そんなことよりハナビの目は鏡に映る己の額に釘付けだった。
「呪印が…ない…」
「えっ…な、何がないの?」
「なんでもありません!」
いつもより高いヒナタの身長、いつもより高い身体密着度、いつもならありえない二人の距離…
そして鏡の中のハナビの顔。
彼は全てをのみ込んだ。
「熱はないなあ…」
ヒナタはハナビの額に手を当てたり、自分の首に手を当てたり、額と額をくっつけあったりしている。
「でも、すごい汗…きっと悪い夢を見たのね。お風呂してあげるから一緒に入ろうハナビちゃん」

お風呂してあげるからいっしょにはいろう…だと…

ハナビは手鏡を取り落とした(布団の上に落ちて事なきを得たが)。
ヒナタは箪笥を開けて、入浴の支度にかかっている。
寝巻き一枚でしゃがみこむ姿を後ろから見ると、背中から太ももまでの曲線がまるわかりでみだりがわしい。
(実際には木ノ葉の街中には寝巻き姿以上にボディラインを誇示した服装などゴロゴロ闊歩しているのだが)
ハナビは正体不明の欲望が沸々と胸に湧き上がるのを感じた。正体どころか出所も出口もわからない。
『ひなたさま…』
愛しい人。誰より守りたい人の名を口篭り、言うべき言葉を頭の中で整理する。

『オレはハナビじゃありません一緒に風呂も入れません』

「ハナビちゃん…どうしたの?お風呂、入らない?」
「入る
言った瞬間、ハナビは障子を突き破って襲来したネジに後ろ頭をぶん殴られた。

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