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ハナビの姉でいることに粉骨砕身尽くしてきたヒナタを、ハナビから奪い取るなんて誰にもできはしないんだと。



自分は誰にでもどんな形でも姉を奪われるのが嫌なだけだという点においては、ハナビは自覚済みだった。
ネジという人物を知れば知るほど、その体を操れば操るほどに並外れた特質に気付く。
それが凄絶な訓練によって身につけたものであることも、
姉がどんな破天荒でも決して愛想を尽かしたりしないってこともとうに知っていた。
もしも万が一この人が周囲の評価通りに申し分ない相手であろうと、どうしても認められない。
ある日突然、
ネジの隣にすぽんと収まった姉が幸福そうに見えたりハナビにはわからない目配せで通じ合ってたり、
夫婦同時に醤油かなんかへ伸ばした指が触れ合って慌てて引っ込めて真っ赤になったりするのを見る
そんな日が来るなんて想像もしたくない。

無論ハナビが姉を一番には想っていないように、ハナビは姉にとって一番大切な人間ではない。
でも私たちは互いを守るために平気で命を賭けるだろう。
それは一番に想いあってると錯覚するよりもずっと血の通った愛情だった。

自分で言わなきゃいけなかったのに…

ハナビがハナビの言葉で、姉さまに言わなきゃいけなかったのに。


「あなただって、そう言ったくせに!!!」
ハナビはネジを突き飛ばして、沸き起こる感情のままに走り去った。
森の中の道なき道を。
涙が零れてくる。
体が震えてる。
前が見えない。
足を引っ掛けて転ぶ。
上から声がする。
「ぬおお…目に痛いなコレ…」
枯葉の絨毯にしくしく泣き伏すネジ上忍。「憎しみで人が殺せたら!」等茶化したとして到底直視できるものではない。
「ハナビのバカ、せっかく猿つかまえるチャンスだったのに…オイラ追っかけるからお前も手伝えよ!」
どこか優しい声で吐き捨てて、木ノ葉丸の気配が遠ざかる。

ひとりになった。

しずかだ。

そろそろ夕方、このまま夜になるんだろうか。
20分も経ってないのは影の角度でわかるのに。

土を踏む音が近付いてくる。
木ノ葉丸じゃない。
ああこれ、あの時のリズムだ。
なつかしい。
私がお風呂上りに姉さまの部屋の前で寝てしまった夜
私を見つけて小走りで近寄ってくれた。
あれから何年も過ぎた気がする。
風邪引くよって、優しく起こしてくれた。
何年経とうが昨夜だろうが、もう戻れないんだから同じだ。
あのときこの人に触れられたのは、確かに私だったのに。
知らない声の、嗚咽が漏れた。
知ってる体温が、優しく肩に触れた。目の前に紫苑色の髪が垂れる。
見なくてもわかる気配で、天使のように微笑んで
ヒナタはそっと抱きしめて髪を撫ぜた。そして言う。
「お疲れ様、かわいいハナビちゃん。今日は大変だったね…」
・・・・・え、
ハナビは目を見張った。
恐々姉を見ると、ちょっと困った顔で、でもいつものように微笑んで、
顔や体の枯葉を丁寧に払い落としたり頬や背中を擦ったりしてハナビを安心させてくれる。
ここにいるよ、泣いてもいいよ、愛してるよと納得させてくれる。
「ねえさま」
どんなに屈んでも、姉を見下ろす位置になるのに
「うん」
言えばちゃんとわがまま聞いてくれる。
ハナビは大きな体でヒナタを抱きしめてしばらく泣いた。


もしかして姉は、頼むから結婚なんかしないでと懇願したらその通りにしてくれるかもしれない。
それくらいハナビを大切に、本当に大切にしてくれた。
いつだってハナビの代わりに苦しんでくれた。
泣きたいときは抱きしめて泣かせてくれた。
きっといつまでも何年経っても、こうやって甘やかしてくれると確信する。

そう、誰かと愛し合って自分の知らないところで幸せになってしまっても
ヒナタがハナビと血の通った愛情で結ばれてることに変わりはないのだ。


「なんで、わかったの?」
まだ少ししゃくりながらハナビが聞いた。
「わ、わかるよ…」
ヒナタはどうして?というように笑う。
「バレないようにがんばったのに…」
「わかります」
「ネジさんはこんな風に泣かないから?」
「ううん、そんな風に泣く。よく似てるよ」
何でそんな事知ってるんだと嫉妬しながら、
いつか姉上のことでネジさんをからかう時がきたらネタはこれでいこうと記憶に書き留めた。
「ねえハナビちゃん。」
「わかってる。ネジさんに謝る」
木ノ葉丸の加勢にも行きたかったが、まあどっちでもいいやと思えた。
本当はヒナタは他の事を言うつもりだったのかもしれない。
少し目を瞬かせてから、じゃあ行こうか?と先に立って歩き出す。
その姉の、小さな手のひらをそっと握り締めた。

「手をつないで歩くのは、これで最後になるかもしれない」
不思議そうに見上げてくるヒナタに、まるで弟か息子にでもなった気分でハナビは言った。
「手を、つながなくても…、」
言おうとしたらまた泣きたくなって、吐き出すのに苦労した。
「繋がっているとわかる。そういう年になったんです」
ほとんど口篭るような言葉に、ヒナタは嬉しそうに寂しそうに微笑んで、優しく頭を撫でてくれた。

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