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ほとんど口篭るような言葉に、ヒナタは嬉しそうに寂しそうに微笑んで、優しく頭を撫でてくれた。



「ネジ…大きくなったな。見違えたぞ」
霧に煙る森の中で、正直ネジはその人が誰だかすぐにはわからなかった。
ただ彼が日々顎が太くなっていく自分に酷似していて、そして伯父から威厳と精力を取っ払ったような人であったので
…そして自分を懐かしく愛しそうなまなざしで見るものだから、ああ自分は久しぶりに父と話しているのだと自覚した。
「なぜここへ来たか、最後の記憶はあるか?」
「確か…自分に固く戒めていたはずの不可侵領域へ手を伸ばし…」
「そうか…危険な任務についていたのだな」
いやちがう、それは夢の方だった。
いや?
確かハナビと自分が入れ替わったような、おかしな夢を見ていた。
あのクソガキ事も有ろうに人を後方へ、しかも岩壁に向かって突き飛ばしやがった…まだ頭が痛い。いや痛くない。
やはりあれは夢だ。
あれ?
ということはオレは浴室でヒナタ様と甘美なひと時を過ごしていたはず、そして不可侵領域、あれ?
「なんでオレは今こんな夢を見てるんですか?」
ネジは頭を抱えたかった。




「なんでオレは今ここにいるんですか?」
ネジがもう少しヒナタとくだけた間柄だったらそう聞いただろうが、生憎ネジとヒナタはそこまで親しくはなかった。

幼かった頃の記憶とは内装が違うがおそらくここはヒナタの部屋である。
まずネジの部屋ではない。現状好ましくないと判断するには充分だった。
そして部屋の中央に敷かれた布団に、きれいに収まっていたヒナタと自分。
何があったか分からない程度に寝乱れた寝巻き姿。必死で記憶の糸を辿る。
確か覚醒時、この腕はヒナタの背中に鼻面は胸にぴったり張り付いていた。
五秒くらい時間をかけてヒナタを振り向くと、あ、と今さら気付いたように掛け布団を胸の前にかき寄せた。
檻の中の小動物のような目。
かわいい。
じゃなくて。
その緩やかな拒絶に悟る。
睦まじい一夜を共にしたわけではないと。
少なくとも合意ではないと。
また五秒時間をかけて頭を戻すネジに、これまた瞬時に悟るヒナタは何か言わねばと
「あー…」
ネジの苛々を助長させる例の表情でへらっと笑って、
「あはは…」
と何の慰めにもならないごまかしでお茶を濁しにかかった。
「よ、よかったね?ネジ兄さ」
「何がよかったんだ!!!言ってみろ!!!」
ネジの逆ギレに怯み上がるヒナタ。真っ青になって、掛け布団を引き摺り器用にも長座のまま後ずさった。
壁に動きを塞き止められ、膝まではだけた裾を合わせる気力もなく涙で潤んだ瞳で見上げるヒナタ。
怯えて震える姿にこみ上げる何かをフルパワーで制御しながら土下座か口封じか血路を探るネジ。
隣室からネジの怒鳴り声に目を覚まし駆けつけ目にした二人の物々しい体位にフリーズ状態のハナビ。
その背後で「おおー戻ってるコレ!よかったなあハナビ、ネジ兄ちゃん!」と猿を肩に乗せケロリと笑う木ノ葉丸。

「やっぱり…あなたが動くと、ろくなことがない…」
振り向かないハナビの、恐山の亡者のような声に総員凍りつく。
当の木ノ葉丸は、こりゃ火か何か吐き出してくると身構えたが、
意外にもハナビは大きなため息をついて大人しく障子を閉めた。
「アレ?」
木ノ葉丸は部屋へ戻っていくハナビの後を追う。
「お、怒ってないのか?コレ…」
確かに怒ってる。
本来なら首を締めて前後左右に揺さぶって昨日の苦渋の5倍は味あわせてやりたいところだが。
「おかしなプレゼントをありがとうございました」
ツンとして言うハナビに「あ、ま、まあ、あんなでよければハハハ…コレ」胸をなでおろすと
「もう二度とああいうのは御免ですが。」
トゲトゲした口調が一つずつハートに刺さる。
でも一番は、振り向いたハナビのつらそうな、どことなく大人びた表情にチクリと胸が痛んだ。

ムリをしてるのかこれからずっとそうすることにしたのか、口元にぎこちなく笑みを浮かべて、
「おかげさまで、少しは認められそうですよ。ネジさんのこと。」
今も泣きたいほどの痛みは覚えるが。
あれだけ相性の悪い二人、ラブラブ夫婦への道は依然難航が予想される。
ちょっかい出したりひやかしたりおちょくったりする時間はまだありそうだから。
ガンガン痛むタンコブだらけの頭に当てがわれていた氷枕を取替えに台所へ向かった。



そのころ里は、ネジがべそかいてヒナタに手を引かれてたという噂でもちきりだったのは言うまでもない。







* おわり *

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